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一風堂の紅白のどんぶり、その背景にあるものづくりの現場

ラーメンが盛り付けられるどんぶり。一風堂では、シンプルな紅白の2種類の器を使っています。ほとんどの店舗ではカウンターに幾重にも積んだり、店舗によっては内装デザインの一部としても使ったりと、その役割は単にラーメンを盛り付けるだけではありません。一風堂が考えるどんぶりの役割とは何なのか。そこには、日本の焼きものを代表する窯元の確かなものづくりが深く関わっていました。

WORDS by SHOTA KATO (OVER THE MOUNTAIN)

どんぶりはラーメンの美味しさを引き立てる

IPPUDO OUTSIDEをご覧の皆さん、こんにちは。IPPUDO OUTSIDE編集部の加藤です。ラーメン好きが多い読者の皆さんの中に、料理が好きな方はどれだけいるのでしょうか。僕は自宅のキッチンに立って料理をするのが好きで、料理は忙しさをリセットするための時間でもあります。もともと器好きということが影響して、「その器に劣らない料理が作れないと気が済まない」という厄介な性格から積極的に料理をするようになりました。僕と同じように器を入り口に料理好きになった方もきっと少なくないはず。ということで、今回は一風堂で使われている器について取材をしてきました。

紅白のどんぶり

目の前にある一杯のラーメンを「美味しい」と言ってもらいたいー その声を聞くためには、何よりもラーメンの味を追求することが大前提ですが、一風堂はどんぶりもその美味しさを演出する重要な要素のひとつに捉えているそうです。

一風堂の店舗を訪れたことがある方はお気づきかもしれませんが、一風堂のどんぶりは店内のディスプレイとして空間を引き立てる役割も果たしています。たとえば、各店舗のカウンターにはおなじみの紅白のどんぶりが積まれています。白は白丸元味、赤は赤丸新味と、それぞれ一風堂の2大看板ラーメン専用のどんぶりです。メニューごとにそれぞれ専用のどんぶりを用意するのは、今でこそ珍しくありませんが、これを始めた当初はラーメン業界としては斬新な取り組みだったのだとか。

また、店舗によってはどんぶりを大胆に扱っているところも。たとえば、新宿アイランドタワー店では、環状の棚の上に紅白の器がレイアウトされていたり、イクスピアリ店では、天井とフロアをつなぐポールにどんぶりが串刺しになっていたりと、もはやラーメンを提供するための器ではなく、内装デザインの一部として活用されているのです。

棚の上にどんぶりをレイアウト 串刺しのどんぶり

創業400年を迎えた日本を代表する磁器

今回の取材を通じて、一風堂の紅白のどんぶりは、一風堂と同じ九州をルーツに持つ「有田焼」の窯元によって作られていることがわかりました。有田焼は皆さんご存知のとおり、日本の陶磁器を代表する磁器です。佐賀県有田町周辺で焼かれた陶磁器を総称として有田焼と呼んでいます。その特徴は、透明感のある白磁に、藍色や赤・黄・金など鮮やかな色が繊細に施されていますが、一風堂のどんぶりのように単色で構成されているものは珍しいといいます。なお、有田焼が作られている有田町では、街の外壁や道路に陶器と磁器が埋め込まれていることも。その独特な街並みからも焼きものの町であることが明確に伝わってきます。

有田町の街並み 外壁に埋め込まれた陶器や磁器

2016年に創業400年を迎えた有田焼の歴史は江戸時代まで遡ります。朝鮮からやってきたある陶工が有田町の泉山で磁器の原料となる「陶石」と呼ばれる石を発見して、日本国内ではじめて磁器の焼成が行われるようになったことが有田焼の起源といわれています。この泉山は400年もの長い歴史の中で削り取られてきました。その証拠に、一山のほとんどが掘り尽くされて、今や白い磁肌を見せながら大きく扇形に広がっています。泉山の陶石は鉄分を多く含んでいるため、焼成すると色が曇ったり、黒点が生じやすくなったりするというデリケートな特徴があるものの、他の土を配合せずに単独の陶石だけで磁器が作れるのは、世界的に見てもきわめて珍しいのだとか。

有田焼は17世紀後半から18世紀後半にかけて、国内はもとよりヨーロッパを主とした海外へも多く出荷されるようになりました。長きにわたる歴史に培われた技術・デザイン・様式美は、今もなお世界中の人々を魅了し続けています。有田焼400周年にあたる今年は、若手作家たちによる現代的な有田焼もフィーチャーされています。

有田泉山磁石場

有田泉山磁石場

過酷な環境でも壊れにくいどんぶり

一風堂のどんぶりを製作している窯元では、型の成形から素焼き、施釉、本焼きなどの一連の工程が行われますが、そのすべては一人ひとりの職人さんたちの確かな手仕事によるものです。

有田焼の特徴は硬くて丈夫であること。石でつくる磁器はそれ自体が高い強度を持ちますが、一風堂が製作を依頼している有田焼はさらに高い強度を誇るそうです。そのタフさの理由は「火の使い方」と「熱の冷まし方」。通常の有田焼の焼成時間は12〜14時間とされています。安価で販売されているものの中には4時間で焼成されているものもあるそうですが、一風堂のどんぶりに費やされる焼成時間は、なんとトータル16時間。そのうちの2時間を最高温度1300度の状態にキープすることで、グッと焼き締まる。そして、熱したどんぶりをゆっくりじっくりと冷ますことで、さらに強度が増すのです。

焼成時間は器の見た目にはわかりませんが、耐久性にはっきりと表れます。それは焼き芋に例えるとわかりやすいかもしれません。焼き芋は表面だけに焼き目を付けても、中身は生焼け状態です。じっくりと石の上で焼かれることで、中までしっかりと火が通り、美味しい焼き芋が出来上がります。焼きものもその原理と同じで、長時間かけて焼成すると、中が結晶化して強度が増し、色味もはっきりと出てくるのです。

型を作っているところ

型を作っているところ

細部の調整。削りを入れている

細部の調整。削りを入れている

焼成前

焼成前

焼成後

焼成後

釉薬を作っているところ

釉薬を作っているところ

釉薬を塗っているところ

釉薬を塗っているところ

窯元の職人さん

窯元の職人さん

ちなみに、一風堂のどんぶりに欠かせない1,300度の2時間焼成は窯元のガス代全体の30%を使うため、通常の有田焼と比較しても、その製作コストは跳ね上がってしまいます。しかし、このプロセスは1ヶ月に1万人以上の利用客が訪れる一風堂にとって妥協することはできません。一風堂のどんぶりに最も求められるのは、過酷な現場でも使い続けられる耐久性だからです。

一風堂ではラーメンがオーダーされると、どんぶりは熱せられ、配膳され、食後には洗浄され、次の出番が来るまで重ねられるという循環を繰り返します。器にとって一風堂の店舗は非常にハードな環境ではあるものの、どんぶりが欠けたり割れたりする頻度は極力低くなければなりません。もちろん落とせば割れてしまいますが、ズバ抜けたタフさが求められる状況下でも信頼して使い続けられるのは、やはり熟練した有田焼の職人技と、約16時間かけて最高1,300度で焼き締められる火力と、じっくり冷まされる冷却時間のなせる技があってこそ。器の強度はその寿命の長さに比例するとされますが、それゆえに、飲食業界ではトータルな視点から、器にかけるコストを見つめ直す動きもあるそうです。

タフさが求められるどんぶり

普段はほとんど気にとめることの少ない存在ですが、一風堂のどんぶりは、こうした丁寧なものづくりの背景から作られていることがわかりました。是非、次に一風堂へ訪れたときは、ラーメンだけでなく、どんぶりのディテールもじっくりと確かめてみてください。ちなみに、一風堂の紅白どんぶりは過去に東急ハンズで限定販売されたことがありましたが、個人的には再販を希望します!

東急ハンズで限定販売されていた一風堂の紅白どんぶり
加藤将太

WORDS by SHOTA KATO
加藤将太 / OVER THE MOUNTAIN

IPPUDO OUTSIDE 編集担当。1981年、山梨県生まれ。紙・ウェブ媒体の企画・編集・文章執筆からイベント・番組の司会進行まで幅広く担当。2011年3月にウェブマガジンCONTRASTの立ち上げに携わり、2013年7月より世田谷は松陰神社商店街のシェアオフィスを活動拠点とする。2014年10月には自営業の屋号として「OVER THE MOUNTAIN」を開設。今日も明日もこれからも「ひと山を越え続ける」。

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