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一杯のラーメンが切り拓いた“自分の未来”。
第3回「ラーメン総選挙」チャンピオン・
木村知史さんを訪ねて。

2015年5月に、一風堂では一部の店舗で「うま味海苔出汁そば」という限定ラーメンを提供しました。このラーメンが、一風堂とは縁もゆかりもなかった一人のラーメン職人が創作した一杯だということをご存じでしょうか?実はこのラーメン、一風堂を運営する力の源ホールディングスが運営にかかわる創作ラーメンコンテスト「ラーメン総選挙」の優勝作品なのです。
そしてこの度、「ラーメン総選挙」はその名を「WORLD RAMEN GRAND PRIX」と改め、4回目の開催を迎えています。 今回は、その「うま味海苔出汁そば」の生みの親であり、岐阜県岐阜市で「ラーメン イロドリ」を営む木村知史さんにインタビューを敢行。「たった一杯のラーメンで、時代も、世界も、自分の未来も変えることができる」―――そんな「WORLD RAMEN GRAND PRIX」のスローガンをまさに地で行く、ラーメン職人・木村さんの“今”に迫ります。

※第3回の開催時点ではイベント名が「ラーメン総選挙」でしたが、この記事内では新しい名称である「WORLD RAMEN GRAND PRIX」の表記で統一させていただきます。



WORDS by KOU MAESONO
PHOTOS by SHUNGO TAKEDA​

WORLD RAMEN GRAND PRIX とは?

JR岐阜駅から車で約10分、周囲に田園風景が広がるのどかな住宅地の一角に、「ラーメン イロドリ」はあります。店主の木村知史さんは、2015年に開催された創作ラーメンコンテスト「第3回 ラーメン総選挙(現WORLD RAMEN GRAND PRIX)」で優勝を果たした人物。受賞当時、岐阜県内屈指の名店と呼ばれる「麺屋 白神」にて修行の身だった木村さんは、2016年10月にこの店を独立開業し、奥様の智子さんとともに毎日店を切り盛りしています。

ラーメン イロドリ

県道152号線から一本筋に入ると、店名の通りカラフルな看板が見えてくる。最寄り駅は名鉄細畑駅。

木村さんのインタビューに入る前に、まずは「WORLD RAMEN GRAND PRIX」について紹介しておきましょう。一風堂を運営している力の源ホールディングスでは、2012年から「ラーメン総選挙」という創作ラーメンコンテストを主宰してきました。1回目と2回目は社内イベントとして開催し、前回の3回目からはその門戸を社外にも開放。日本国内にとどまらず、海外からも多数応募が集まるなど、回を重ねるごとに大きな盛り上がりを見せています。「ラーメンが持つ無限の可能性を追求し、次世代のラーメン業界を担うニューヒーローをワールドワイドに発掘する」という信念のもと、今年からその名を「WORLD RAMEN GRAND PRIX」へとリニューアルし、新たに実行委員会の元で運営されています。

WORLD RAMEN GRAND PRIX

WORLD RAMEN GRAND PRIXのポスター。優勝賞金1,000万円というビッグイベントだ。

コンテストでは、「ベジラーメン」「カレーラーメン」など毎回独自のテーマが設けられ、参加者はそのテーマに沿って自らの技術と創造性をフル回転させ、渾身の一杯を作り上げます。書類審査から始まり、それを通過すると今度は実際にそのラーメンを審査員に振る舞う最終審査へと進みます。実績のある料理人やラーメン評論家など、百戦錬磨の美食家たちの実食を経て、最も多くの票を集めた人がグランプリになるというわけです。

「ラーメン総選挙」の様子

過去の「ラーメン総選挙」の様子。第3回は初めて社外からも公募し、海外からの参加者も。


自分が一番お金を使ってきたのが「ラーメン」だった

そんな「WORLD RAMEN GRAND PRIX」の第3回大会優勝という称号を引っ提げ、念願だった自身のお店「ラーメン イロドリ」をオープンした木村さん。ラーメン職人を目指したきっかけから「WORLD RAMEN GRAND PRIX」のこと、またこれからの展望などを伺いました。

木村さん

木村さんがラーメン職人を志すようになったきっかけは?

木村さん
木村さん:元々飲食の世界で自分の店を持ちたいと思っていて、中学を出てからすぐに料理の専門学校に通ったんです。その後、中華料理屋とか創作居酒屋とか、いろんな飲食店で働いていたんですけど、働きながらどこか違和感があって…。ふと冷静になったときに、自分が今まで飲食で一番お金を使ってきたのは「ラーメン」だなと。簡単ではない世界だというのは分かっていましたけど、ちょうど「白神」で従業員を募集しているのを知って、思い切って飛び込んでみました。それが7年前ですね。

なぜ修行先を「白神」さんにされたのですか?

木村さん
木村さん:自分でラーメンを作るなら、自家製麺で勝負したいと思っていました。当時岐阜で自家製麺を出しているラーメン店は少なくて、「白神」はその先駆けでした。「白神」のオーナーの石神さんも、独立を前提として弟子を取っている方で、従業員仲間も独立志向の強い人が多い環境でした。

「WORLD RAMEN GRAND PRIX」に参加しようと思ったのは?

木村さん
木村さん:オーナーの石神さんがFacebookで知ったようで、それを従業員に「みんな参加してみないか?」と声を掛けてくれたのがきっかけです。当時店にいたスタッフはほぼ全員申し込んだと思います。営業終了後に試作して、互いのラーメンに意見を出し合うなどしていました。
終始穏やかに話してくれた「イロドリ」店主の木村さん

終始穏やかに話してくれた「イロドリ」店主の木村さん。



前代未聞、“海苔”で出汁をとったラーメンとは?

第3回の「WORLD RAMEN GRAND PRIX」のテーマは「出汁」でした。正確には“うま味”成分を含んだスープを「出汁」と定義し、昆布や鰹、椎茸など、日本食の基本でもあるこの“和だし”が、スープの3割以上を占めるラーメンであることが出品の条件。決して簡単ではないこのテーマで、木村さんが作り上げたラーメンは「うま味海苔出汁そば」。何と、海苔で出汁を取る、という画期的な試みでした。

「うま味海苔出汁そば」のアイデアはどうやって生まれたのでしょうか?

木村さん
木村さん:大きな大会なので、普通にやっても相手にされないだろうと思って、「今までにない出汁の引き方」をするか、「出汁の素材そのものが珍しいもの」を使うか、どちらかで挑戦してみようと考えました。その中で改めて「うま味」や「出汁」について本で読んで勉強していく中で、海苔でも出汁が取れるということを知ったんです。これは面白そうだと思って試作をしてみました。ベースのスープは羅臼昆布やイワシなどを使用して、提供直前に海苔で取った出汁を加えることで、海苔の風味を活かした一杯に仕上げました。
木村さんの優勝作品「うま味海苔出汁そば」。全国15店舗の一風堂で販売。

木村さんの優勝作品「うま味海苔出汁そば」。全国15店舗の一風堂で販売された。

書類審査を通過したときはどんなお気持ちでしたか?

木村さん
木村さん:メールでご連絡をいただいたんですけど、見たときは正直体が震えました。実はその時点で、自分で納得のいく海苔を見つけられていなかったんです。いろいろ試していたのですが、なかなかうまく海苔から出汁が引けず…。そんな時に、浜名湖原産で冬場だけしか出回らない海苔があるということで、それを試したときにようやく満足の行く味に仕上がりました。

最終審査ではどんなことが印象に残っていますか?

木村さん
木村さん:とにかく緊張しましたね。当日は調理と、どういうコンセプトでこのラーメンを作ったのかプレゼンをするんですけど、元々人前で話をするのも苦手で、実は何を喋ったかもよく覚えていないんです(笑)。それでも、一風堂の河原会長や審査員の方から、「今までに味わったことのないスープだった」と言われて、やろうとしたことが伝わった実感はあったのでとても嬉しかったです。また、周りの参加者の方も含めてとても刺激的な現場を目の当たりにできたことは、すごく大きな経験でした。元々3位~5位くらいに入れたら良いなくらいの考えだったので、1位で名前を呼ばれたときは頭が真っ白になりました。

グランプリを取ってから、変わったことはありますか?

木村さん
木村さん:当時はまだ「白神」の従業員だったので、正直「自分なんかがこんな賞をいただいてしまっていいのか」という気持ちもあったんです。でも、その後「白神」に、面識のない同業者の方がわざわざ食べに来てくださったり、中には海外から「グランプリのラーメンが食べたい」と言って足を運んでくださるお客様がいたり、すごく実感が沸いてきました。元々独立するつもりでいましたが、優勝したことで改めて背中を押してもらったような感覚がありますね。
WORLD RAMEN GRAND PRIX優勝瞬間の様子

「頭が真っ白になった」という優勝瞬間の様子。優勝賞金の一部を開業資金に充てた。



独立開業後、瞬く間に注目の実力店へ。

そうして2016年10月、木村さんは岐阜市内に自身の店「ラーメン イロドリ」をオープンさせます。新店とはいえやはり注目度は高く、昨年度発行の「ラーメンWalker東海版」では表紙を飾り、新店部門でも第1位を獲得。早くも注目の実力店としての地位を築きつつあるようです。

「イロドリ」ではどのようなラーメンを提供していますか?

木村さん
木村さん:鶏白湯ラーメンを出しています。岐阜県の地鶏である奥美濃古地鶏から取ったスープと、北海道産小麦100%で作った自家製麺がウリですね。実はこの製麺機は「WORLD RAMEN GRAND PRIX」の賞金で購入させていただきました。毎朝7時には店に入って、この場所で製麺しています。
メインの商品「イロドリラーメン」

メインの商品「イロドリラーメン」。岐阜県の奥美濃古地鶏を用いたうま味たっぷりの一杯。

「うま味海苔出汁そば」は出さないのですか?

木村さん
木村さん:みんなから言われるんですけど(笑)、海苔が本当に限定的にしか手に入らないので、冬場に期間限定で出すようにしています。やっぱり自分にとっては名刺代わりのような一杯なので、期待していただいている方も多いですし、これからも大事にしていきたいですね。

改めて振り返ってみて、木村さんにとって「WORLD RAMEN GRAND PRIX」はどういう存在ですか?

木村さん
木村さん:自分の人生でも断トツでテッペンの出来事ですよね。あの優勝があったおかげで、こうして自分の店も注目していただけますし。「うま味海苔出汁そば」もそうですけど、思いついたことはまずやってみる、ということの大切さにも気付きました。まったく駄目なときもありますけど、ハマるときはハマる。それがラーメンの面白いところだなと思います。あとこの大会を通じて、一風堂さんが大切にされている「変わらないために変わり続ける」という言葉を知って、それは自分にとっても大切な言葉になりました。実はスープも、微妙に製法を変えたりしているんですよ。気付いているお客さんはいないかもしれないですけど(笑)。
WORLD RAMEN GRAND PRIX優勝時の賞状とトロフィー

店内の神棚には、優勝時の賞状とトロフィーが。撮影していくお客さんも多いという。

「ラー メンイロドリ」の店内の様子

「イロドリ」の店内の様子。表紙を飾ったラーメン雑誌も置かれている。

ラーメン イロドリ

取材当日も、幅広い世代のお客さんがひっきりなしに訪れていた。

今後の目標をお聞かせください。

木村さん
木村さん:一番は地元の人にちゃんと愛されるお店にすることですね。「グランプリの店」ということで、プレッシャーに押しつぶされそうになることもあるんですけど、あまりそこを意識しすぎると自分を見失うことにもなるので、ある程度冷静でいるようにしています。自分の育った町でもありますし、地に足を付けて、お子さん連れでも気軽に来ていただけるような店にしたいですね。


次世代のラーメンヒーローを求めて

グランプリを獲得したとはいえ、決して奢ることなく謙虚かつ真摯な姿勢で答えてくれた木村さん。ラーメン作りへの飽くなき探究心と誠実な姿勢は健在で、今後も新しいラーメンにチャレンジしていきたいと力強く語ってくれました。ラーメンの持つ可能性を信じ、自らの力で未来を切り拓いた次世代のラーメンヒーロー。木村さんは今日も誠実に、一杯のラーメンと向き合っています。

木村さん
WORLD RAMEN GRAND PRIX
ラーメン イロドリ

ラーメン イロドリ

岐阜県岐阜市北一色5-13-25
Tel 058-201-5000
営業時間 11:00~14:00 / 18:00~21:00
http://blog.livedoor.jp/irodoriotayori/

木村さん

木村 知史さん

昭和57年、岐阜県生まれ。いくつかの飲食店勤務を経て、2010年に「麺屋 白神」へ弟子入りしラーメン業界へ。2014年に開催された「第3回ラーメン総選挙(現WORLD RAMEN GRAND PRIX)」で優勝を果たす。2016年10月、自身のお店「ラーメン イロドリ」をオープンさせる。

前園 興

WORDS by KOU MAESONO
前園 興

出版社、編集プロダクションを経て、2011年に力の源ホールディングス入社。一風堂を始めとした社内ブランドの販促企画や、広告物の制作ディレクションに携わる。一風堂の各種SNS運用や、ウェブマガジン「IPPUDO OUTSIDE」の編集も担当。

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