IPPUDO OUTSIDE|ラーメンや一風堂にまつわる“ヒト・モノ・コト”にフォーカスするウェブマガジン

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IPPUDO JAPAN

IPPUDO NYが日本酒「八海山」と切り拓いた、
日本食の新しいプレゼンテーション。(後編)

「経済、ファッション、芸術の発信地」、「トレンドの最先端」、「人種のるつぼ」…。さまざまな形容詞で彩られる“ニューヨーク”。日々新しいものが続々と生まれる一方で、同じ数以上が消えていく、熾烈な競争の舞台でもあります。そんな新陳代謝の速いニューヨークに2008年に1号店をオープンしたIPPUDO NYは、メニューはもちろん、店内のインテリアデザインやスタッフのユニフォーム、地域のイベント出店など、感度の高いお客様に対して、常に” something new(新しい何か)”を創り続けてきました。ラーメンだけを食べに来るのではなく、呑んで、つまんで、語らいを楽しんでほしいとの想いから“ラーメンダイニング”というスタイルの店を造った一風堂にとって、Sake=日本酒は当初から重要な相棒。ラーメンや日本酒という日本の食文化が持つ魅力を、いかにして現地に広めるか。こうしたチャレンジのために、IPPUDO NYはこれまでもさまざまなイベントを開催してきましたが、新潟が誇る日本酒「八海山」とのコラボレーションイベントもそのひとつで、2015年からスタートし、2017年で3回目を迎えました。最終回となる今回の会場は、オープンしたばかりの五番街店(5th Avenue)。日本酒への興味が高じて唎酒師の免許まで取ったラーメンマスターが創り上げたラーメンに、舌が肥えた、新しもの好きのニューヨーカーたちはどんな反応を示したのでしょうか?当日の様子をレポートします。

※前編はこちら



Text & Photo by Kasumi Abe

お酒を生かした渾身のラーメン

この雪室熟成三年ともぴったりの相性で、舌の肥えたニューヨーカーを唸らせた今回の醤油ラーメンは、いったいどのように作ったのでしょうか。鐘ヶ江シェフにまずはコンセプトから聞いてみると、「前回、前々回作ったのはお酒を使ったラーメンでしたが、今回作ったのは唎酒師としてお酒を生かしたラーメンです。」という言葉が返ってきました。

一風堂 八海山

唎酒師としての持論は、「おもてなしが一番大事ですよ。お酒のうんちくを語られて楽しい人なんていませんから」

一風堂の調理場に立って19年、NYに来て10年。もっと日本の良さを広めたいと思い、2014年に2号店であるWESTSIDE店のウェイティングバーを酒BARに変えたのがきっかけで、好きだった日本酒を突き詰めたくなって唎酒師の免許を取ったという鐘ヶ江シェフ。2017年3月に八海山の蔵元を訪れた際に飲んだ、発売したての「雪室貯蔵三年」が、辛口でおいしくて非常に記憶に残る味だったそうで、その味を殺さないように作ったのが、この醤油ラーメンなのだとか。「これは唎酒師にならなければ恐らく作れなかったラーメンです。」

「八海山 雪室貯蔵三年」に合う醤油ラーメンの製法

新しいラーメンを創作する際、完成予想図の絵を描きながら計画を進めていく鐘ヶ江シェフに、ディテールについても解説してもらいました。

一風堂 八海山
一風堂 八海山
一風堂 八海山

スープ: 「今回自分の中のテーマは、“熟成しているものと熟成していないものを合わせる”としていたので、羅臼(らうす)昆布と酒米山田錦から取ったダシと、3年熟成の豚のゲン骨(熟成骨)から取ったダシを9:1の割合で合わせました。熟成骨は、豚骨を塩漬けにして風を当てながら摂氏5度で3年間保存してできあがったものなんです。「雪室貯蔵三年」に合わせて、3年熟成させたこの骨を使うことにしました。」 ※スープに浮いているのは酒米の山田錦。

かえし: 「醤油、羅臼昆布、八海山の特別純米と純米吟醸雪室貯蔵三年、あと酸味として千鳥酢を少し足してかえしを作り、スープに足していきました。酸味は、スープの表面に油を浮かせていたのでさっぱりさせるためにね。味をキュッと締めてくれる効果もあります。この浮いた油は、香りのない太白(たいはく)胡麻油に、酒米の山田錦の香りを移して閉じ込めた香油で、口に含んだときに少しお酒の味がするように、ほんの数滴入れました。飲んで鼻から抜けたときに、なんかお米の香りがするなっていう程度です。」

スープは、イベントの2時間前に完成したのだとか。「3時間だけ生きられるスープなので、直前まで火入れをせず、最後に温めただけ。3時間を超えると酒米の山田錦が開いて沈殿し、スープが濁って味が変わってしまうので。今回使った山田錦は、雑味を残したかったので、表面が磨かれていない無垢のものを使い、少し煎りました。角のある雑味というのは舌にのせた瞬間旨味に変わるからです。味がきれいすぎると印象に残りませんしね。」
鐘ヶ江シェフの説明は続きます。「苦味、甘み、酸味などさまざまな味をブレンドするのが僕のスープの作り方。その方がある程度、記憶に残るような味になるんです。」

一風堂 八海山

麺:「今回の麺は何ひとつ主張しないようなものを作りました。卵を使ったシンプルな細麺です。3歩下がってついて来る、みたいな麺ですね(笑)」

盛りつけ:「3年やってきた八海山との最後の回だったので、有終の美にしたくて華やかな見た目を意識しました。お口直しのために、カリカリ梅を細かく刻んで金粉を足して。ちょっとしたサプライズの演出としては、最後に盃を持ち上げてグッと飲み干すと金粉だけが残ってスルッと口に入ってくるんです。盃を選んだのはその理由。お酒を飲んでいる気分で華やかに楽しく終えられたらと思い、黒田節を踊るときに使う大盃を取り寄せました。普通あれを器にしないと思うんですけどね(笑)。今後はWESTSIDE店の酒BARで使おうかな。」

一風堂 八海山

イベントを終えて

「日本の食文化を世界に広めたいという一風堂の思いと、日本酒を世界に広めたいという八海山の思いが一致してスタートしたイベントですが、IPPUDO NYのファンにこの雪室貯蔵三年の魅力をユニークな切り口で知っていただけてよかったです。」(中島さん)

「お酒の味や価値を理解した上で、あえてラーメンにも応用することができる鐘ヶ江さんだからこそ完成したラーメンになったと思います。IPPUDO NYとのコラボイベントが3回すべて成功し、ラーメンと日本酒の価値観を合わせる新しいスタイルが確立できたと思います。」(新川さん)

「お客さんにも喜んでいただけましたし、たくさんの方に支えられ楽しいイベントになりました。また個人的には、今回は唎酒師になってからのイベントだったので、これまでとは視点が異なりました。今まではお酒を使った物づくりの視点でしたが、今回は無濾過で火にかけないなど、酒造りの技法を真似て、酒造り目線で取り組むことができました。」(鐘ヶ江シェフ)

一風堂 八海山

ところで、イベントとして成功裏に終わったのに、なぜあえて“ファイナルコラボレーション”をうたうのか、鐘ヶ江シェフに訊いてみると、「塩ラーメン、味噌ラーメン、醤油ラーメン、この3つで完結と最初から決めていました。なぜか? 仕込むの大変なんですよ(苦笑)。熟成骨を作るのに3年、かえしを作るのに3ヵ月、八海山の酒粕で作った焼き豚に5日間、スープに4日間ですから。」

ただしこれには誤解がないように補足をしておかなければなりません。あくまでも八海山とのコラボが「ニューヨークでは完結」ということであり、他の地域や国では将来的に同様のイベントをするかもしれないということでした。

この取材を通じて感じたのは、IPPUDO NYはただのラーメン店ではなく、海外で日本の食文化の魅力や価値をラーメンと共に伝えられるショーケースのようだということ。今後いったいどんなサプライズを仕掛けてくるのか、楽しみでなりません。

前編はこちら →

WORDS by Kasumi Abe
安部かすみ(Editor & Writer)

2002年に渡米し、在ニューヨークの新聞社でのシニアエディター職を経て、2014年からフリーの編集者、ライターに。ニューヨークから食やエンタメ、テック系などのトレンドを発信中。編集者歴は日米で20年。

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