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INTERVIEW

日本の一風堂がユニフォームをリニューアル。エプロンに込められた想いとは?

Tシャツと手ぬぐいバンダナと前掛け。湯気が立ち込める厨房で一秒でも速くラーメンを提供するために突き詰められたこのスタイルは、ラーメン職人の姿として広く定着しています。創業31年を経て、なぜ一風堂はこの常識に挑んだのか。そして、なぜANREALAGEだったのか。リニューアルプロジェクトを推し進めた3人のトークから、その理由に迫ります。

WORDS by SHOTA KATO PHOTOGRAPHY by HIDEKI ANZAWA

次の30年に向け、変わるべきは日本の一風堂

まずは一風堂が国内店舗のユニフォームを変えることになった経緯について、お聞かせください。

島津智明

イメージを変えたかったんです。ラーメン屋のイメージを。Tシャツ着て手ぬぐい頭に巻いて、前掛けして腕組みして、ちょっと睨んだりして(笑)。ラーメン屋の店員さんってだいたいそんなイメージじゃないですか? 一風堂もずっとそうでした。過去にいろいろ変えようとしたこともあったんですけど、カッコいいけど動きにくかったり汗がこもったり、乾きにくかったりして、結局このスタイルに戻っていました。僕は2008年から2015年までニューヨークの一風堂で責任者をやっていまして、他にもいろいろな国でお店を立ち上げてきたんですけど、海外のラーメン店もだいたいこのスタイルです。味だけでなく雰囲気も日本らしくしますから、そうなりますよね。ニューヨークの一風堂はラーメン屋というよりはテーブルも多いダイニングなので、違いを出したくて、ユニフォームをENGINEERED GARMENTSさんにデザインしていただきました。スタッフも喜んでくれましたし、気概というか、ここから新しいものを生み出していくぞ、みたいな気持ちが改めて強くなりましたね。

河野秀和

あのニュースにはびっくりしました。ファッションの業界でも相当なインパクトでしたから。僕たちの本社は熊本なので一風堂はもちろんよく知っていましたけど、あのユニフォームの考え方にもディテールにもすごく共感しました。

島津智明

ありがとうございます。その後、創業30周年となる2015年に日本の一風堂の責任者として戻ってきたのですが、僕が海外に出た年から7年経って店の数は倍くらいに増えていました。30年経って次のステージに進むために、創業の時と変わらない一風堂らしさを、これからの時代に合った新しいスタイルで表現しよう、と創業者の河原とも話していて、ユニフォームもその一環でした。世界中のラーメン屋が同じスタイルになっている。そろそろ日本も変えようって。アルバイトのスタッフさんたちからも「日本のユニフォームはいつ変わるんですか?」って(笑)。それで河野さんと出会ったんです。面白そうな社名で、え、熊本の会社なの? って(笑)。僕らは福岡の会社ですから、同じ九州の熊本から日本の服づくりを変えているっていうことに、すごく共感しました。

河野秀和

島津さんと初めてお会いした時、すごく客観的に一風堂のことを見ているんだな、と感じたことを覚えています。日本から世界にもっと大きなインパクトを与えたい、どこもやっていないことをやりたい、と話してくれましたよね。一風堂の方々にはそれまでにも何人もお会いしていましたが、島津さんも大きなビジョンを持っていて視野が広い。こういう人をたくさん生み出せる組織って凄いな、と。ラーメンって今もう皆が好きですし、お店が話題になることも多いですが、一風堂はちょっと違うポジションですよね。地域で違う店のつくりとか、モダンなインテリアに活気があるスタッフとか、30周年記念に無料でラーメンを振る舞う心意気とか。ビジネス的にも成功しているのに、常にそうやって世間を驚かせ続けようとするDNAを、どうユニフォームに結実させるか。それがキーでした。私自身ニューヨークとパリのユニフォームの印象が強くて、一風堂といえば「カッコいいラーメン店」でしたから、求められているのは、「“カッコいい”の次のステージ」なのだろうと解釈しました。ちょうどその頃、ANREALAGEの森永さんとお仕事をさせていただいていて、テクノロジーや最新技術を積極的に用いるANREALAGEなら、一風堂が次のステージを目指す上で、面白い化学反応を起こせるはずだと感じたんです。

ラーメン店とANREALAGEのコラボレーションという発想は、なかなか結びつかない部分もあると思います。

河野秀和

確かにそうかもしれません。島津さんからも「振り切った提案!」とおっしゃっていただきましたよね。でも、常識に囚われない発想や、微かな変化も敏感にキャッチして服づくりに活かす森永さんは、一風堂に必ずフィットすると思っていました。ANREALAGEは、前衛とか非日常といったイメージを抱く人が多いかもしれませんが、日常や時間の経過を緻密に観察して、その奥にある本質からコンセプトを組み上げていくから、見た目だけの奇抜さにならないんです。常識に囚われない一風堂となら、間違いなく「“カッコいい”の次」に行けるユニフォームが生まれるという確信がありました。

統一感のなかにも、自分らしさを

今回のユニフォームは、エプロンを主体に、着る人が自分らしく着こなせるようにした、とのことですが、そこに至った背景やアイテム構成を教えてください。

島津智明

一風堂には1店舗20~40名のアルバイトスタッフさんがいて、数名の社員と一人の店長という構成です。30年前からずっとTシャツとバンダナかタオルを頭に巻いて、前掛けをするスタイルで、2千人近いスタッフにアンケートを取ったら、女性スタッフの「ユニフォームを変えて欲しい」という回答が「今のユニフォームが好き」を大きく上回りまして。「特徴がない」、「古臭い」、「バンダナがイヤ」という声が多く、これは変えなくては、と。女性も入りやすいラーメン屋をめざしながら、女性スタッフが嫌がる制服というのは、笑えないですからね。そういう視点でスタッフを見てみると、前掛けの長さを変えてみたり、先輩からもらった海外の一風堂やイベントの時につくったTシャツを着てみたり、ペンの刺し方にこだわってみたり、と、皆ちょっとずつ自分らしさを出そうとしていたんです。

河野秀和

島津さんから、パッと見て変わったことが伝わり、誰が着てもカッコいいな、と感じられるように、全員エプロンにしたいとお話がありました。首から掛けたり、腰で巻いたりと両使いできるようにしてほしい、と。それから、社員や店長には違う上着を用意したい、とも。これを着たいから働き続けたい、社員や店長をめざしたい、と思ってもらえるユニフォームにしたいと言われて、このプロジェクトの重要さを改めて感じました。帽子も複数タイプつくって選べるようにすれば自分らしさはもっと出せる、というアイデアは、プロジェクトの後半で出てきました。

すべてのアイテムの生地には特殊な仕掛けが施されているとのことですが、この着想について教えてください。

森永邦彦

一風堂の方たちからいろいろなお話を聞いて、お店に行って厨房の中やホールの環境や、スタッフがどんな風に動くのかを観察しました。ユニフォームですから動きやすさや軽さや丈夫さは当然の機能で、その上で僕らにしかできないデザインをしました。僕は“日常の中で変化するもの”をいつも意識しているのですが、一風堂の店内では、何が変化しているだろうと思いながら見ていて、お客さんとスタッフの距離が常に変化しているなと思いました。お客さんが入ってくるとき、客席に座るとき、スタッフがオーダーを聞きに来るとき…。それぞれの状況で生まれる「人と人の距離の変化」をデザインにしたいと考えたんです。

島津智明

そこに着目すること自体、面白いですよね。普通なんとも思わんですよ(笑)。

森永邦彦

それで、一風堂の理念「変わらないために変わり続ける(KEEPCHANGINGTOREMAINUNCHANGED)」を特殊なプログラムで生地にプリントして、近づくと「風」の模様、遠ざかると一風堂の理念が浮かび上がるようにしようと考えました。人と人の距離の変化によって「店内に新しい風が生まれてほしい」という想いを込めて。

島津智明

そのアイデアをお聞きしたとき、びっくりして「うぉっ!」となりましたもん。距離の変化をデザインするって、そんな考え方があるのか!って。しかも風の模様だったのに、近づくとうちの理念が書いてあるやん!って(笑)。もう概念がぶっ飛んでて、すごいなぁと。

そのコンセプトの根底にある、アンリアレイジが洋服のデザインにおいて普段から大切にしていることとは何ですか?

森永邦彦

根底にあるのは、「日常の一瞬の空気を揺るがす」ということですね。僕は洋服を作ることに関して執着を持っています。そもそも、洋服はさまざまなシチュエーションや環境によって変化するものだと思っていて。その意味において、一風堂の店内で洋服が果たせる意義や、そこでしか起こり得ない現象をデザインしてみたかったんです。ラーメン店の中にある日常を洋服で揺るがす、空気を変えるということに対して純粋にワクワクしましたね。

島津智明

なるほど。外食って非日常であって、逆に日常というのは家で食べるご飯じゃないですか。うちの創業者は「店は舞台」とよく話すんですが、お店という非日常的な空間で人との距離をデザインするというのは、これを着るスタッフに、「自分はお客様からどう見られたいか、どう魅せたいのか?」を考えさせますよね。動きやすさとか、快適さとか、そういう機能はちゃんと強化されて、その奥にある一風堂らしさが、これまで見たこともない表現で伝わってくる。着る側の僕らこそワクワクしています。

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